今回は『膝蓋骨脱臼』について。
①『膝蓋骨脱臼』とは
皆さんは「膝のお皿が外れた」と言う話を聞いた事が有りますか?
聞いたことない方が多いのではないでしょうか。
これは『膝蓋骨脱臼』と言うのですが、膝のお皿(以後、膝蓋骨)が元々の位置よりずれてしまった状態のことです。
膝蓋骨は裏側で大腿骨の溝にハマるように適合しています。膝が動く際には溝の中を滑走するように動くようにできているのですが、何らかの原因で溝から外れてしまうのです。(構造的に外側へ外れやすい)ほとんどの場合、膝蓋骨に付着して強力に引っ張る「大腿四頭筋」の影響で起こります。
② 脱臼しやすい膝って?
脱臼しやすい条件としては以下の通り。
・X脚(外反膝):膝が内側に存在するため外側に引っ張られやすい。
・骨の形状:大腿骨側の凹みが浅い(特に外側)膝蓋骨側の凸が浅い など
・筋バランスの乱れ:張力が不均衡(例:内側緩い 外側硬い)
実際には、これらが合わさって脱臼を引き起こします。
③症状
膝蓋骨脱臼の症状は以下の通り。
脱臼時
・不意に起こる痛み
・機能障害:膝を軽く曲げたまま屈伸できない 立てない
・変形:膝蓋骨の位置異常 など
整復後(元の位置に戻った後)
・膝蓋骨の内側を触ると痛む
・腫脹
・動かすと痛む
・熱感(傷めた膝が、触れると熱い) など
④ 応急処置
膝蓋骨脱臼発生時、多くの場合は自然整復されますが、もし戻っていなければ応急処置を行います。
負傷者を仰向けにする
↓
施術者が傷めた脚を持ちあげて股関節を屈曲させる。
↓
その上で膝を伸ばすと、簡単に整復される
↓
RICE法施行(第11回「応急処置RICE法」参照)
その他、施術者が優しく力を加えるだけでも戻る場合もあります。
いずれにせよ膝蓋骨脱臼における整復は安易であり、強い力は不要です。整復後は副木固定や装具使用で患部安静を保つ。(固定期間 3~4週が目安)
※整復しても痛みや腫れが強い場合は、骨折等の合併が疑われますのでご注意を。
⑤ 後療法(リハビリなど)
受傷直後からやれることは沢山あります。
受傷後一週間
◎RICE法継続
◎運動
・等尺性運動(筋肉を収縮させるのみの運動)
・下肢挙上運動(膝はそのまま動かさず、脚を挙げ下げ)
・松葉杖歩行(痛まなければ荷重OK)
・エアロバイク(膝があまり曲がらないように、サドルを高くして)
◎施術
・ストレッチ (ハムストリングス 下腿三頭筋)
・電気治療や超音波治療開始
・マッサージ(腸脛靭帯 痛まない周辺箇所 )
受傷後一週~二週
◎運動
・耐えられる範囲で膝を曲げての運動を行う
・下肢挙上運動(重錘をつけて 痛みが出ない程度に)
・プール歩行
・エアロバイク(片脚へ)
・荷重運動開始
◎施術
・温熱開始(リハビリ後痛むなど、必要に応じて冷却も)
・電気や超音波治療等の継続
・マッサージ、ストレッチ
・テーピング施行
受傷後三週~六週
◎運動
・負荷を上げる(屈曲角度↑ 抵抗や重り負荷↑ 両脚⇒片脚エクササイズ )
・低い高さで段差昇降訓練も行う
◎施術
・固定除去へ(テーピング、サポーターへ移行)
・温熱・電気や超音波治療等の継続
・マッサージ、ストレッチ継続
受傷後六週~十二週
◎運動
・競技復帰へ(敏捷性トレーニング 持久力訓練等)
◎施術
・温熱・電気や超音波治療等の継続
・マッサージ、ストレッチ継続
・テーピング施行、サポーター使用
⑥ 予後
膝蓋骨脱臼は再発しやすく、習慣性へと移行することも少なくありません。何度も繰り返したり、大きな構造的脆弱性が認められる場合には手術適応となります。
出来るだけ重症化させないためにも、初期治療からしっかり傷を癒して、その後予防に努めましょう。
⑦ 私見ですが
膝蓋骨脱臼をした選手は、膝に不安を感じつづけることが少なくありません。
実際、再発しないまでも痛みや違和感など、症状が出やすい傾向にありますので、暫くはテーピング等でサポートすることは必須です。テーピングでは脱臼側にガーゼなどを用いて土手をつくり、それをテーピングで補強するようにしてください。
また、筋肉バランスなど、努力すれば変えられる部分は改善しておくことで、再発のリスクを減らせます。
重要なのは、膝蓋骨を直接引っ張る「外側広筋の緊張緩和」「内側広筋の強化」ですが、間接的に影響する「殿筋」や「大腿筋膜張筋」「ハムストリングス」「下腿三頭筋」等の周辺筋肉のバランスも整えた方が良いでしょう。更には、動作パターンもチェックして、全身的な観点から膝への負担を減らすことが望ましいです。
何よりも初発を防ぐのが理想ですから、X脚などリスク要因の高い選手は日頃から予防に努めてください。それと最後に、便宜上割愛致しましたが、実際には部分的に外れてしまう「亜脱臼」もありますのでここに記しておきます。ちなみに対処法は同じです。