今回は「ショック」について。
① 『ショック』とは
「ショック(状態)」とは、様々な原因で「血圧が低下」して、脳、腎臓など重要臓器の血流が保てなくなった状態のことで、最悪のケースでは死にも至ります。
血圧低下は「心拍出量の極度の低下」や「末梢血管の異常拡張+透過性亢進」によって引き起こされますが、その元となる原因は様々です。
② ショックの種類
ショックは、原因によって分類されています。
特徴も含めてみていきましょう。
㋐循環血液量減少性ショック(出血・脱水・血管透過性亢進)
循環する血液そのものの量が大幅に減少したことで引き起こされるショック。
・出血性ショックは外傷性ショックで最多
・「血管透過性亢進」は広範囲熱傷、急性膵炎、腸閉塞などで起こる
・全血液量の20%以上(1.1ℓ)を出血した場合に発生(30%以上1.8ℓは生命危機)
・ショック初期には、血圧維持のために「血管収縮」「心拍数増加・頻脈」
・「顔面・皮膚蒼白」「冷感」「冷や汗」
・進行により意識レベル低下
※速やかに止血、および輸液が必要。
㋑血液分布異常性ショック(感染性・アナフィラキシー・神経原性)
血管の特定箇所が何らかの異常により拡張した結果、循環血液量が減少して起こるショック。
血管拡張により、最初手足があたたかくなるため『warm shock(ウォームショック)』とも呼ばれます。
こちらは更に分類して、みておきましょう。
1)感染性ショック
敗血症時など、病原微生物や細菌などによる毒素に対して過剰な生体反応として動脈や細動脈が拡張する。その結果末梢動脈抵抗が減少し、一時的に心拍出量が増加するが、次第に心拍出量が減少し、血圧が低下してショックを起こす。
2)アナフィラキシーショック
すでに特定の抗原に対し感作されている人が、その抗原に再び曝露することで起こる急性のアレルギー反応によるショック。
・初期症状:掻痒感、胸部不快感、嗄声、くしゃみ、咳、悪心、嘔気など
・続いて起こる症状:呼吸困難、喘息様発作、胸内苦悶感、意識障害、蕁麻疹、全身発赤、冷汗、過呼吸、血圧低下、咽頭浮腫など
※要注意:「咽頭浮腫」や「気管攣縮」による「気管の閉塞」
3)神経原性ショック
循環調節にかかわる神経系が障害されて、「副交感神経」が優位になることによる徐脈や血管拡張で引き起こされるショック
・上位胸椎より高位の脊髄損傷では、交感神経が障害されて発症
・交感神経損傷によるショックでは「頻脈」「冷感」「冷汗」などの症状も出ない
(「徐脈」「皮膚に赤みがあって温かい」「四肢麻痺」「感覚異常」)
・「疼痛」や「精神的不安」、「強い怒責」などで起こるのも神経原性ショックの1つ
(「血管迷走神経反射」によるもので「失神」「徐脈」が特徴)
㋒心外閉塞・拘束性ショック
心臓自体には異常がないが、周囲の圧からの圧迫によって、心臓の拡張障害を起こし、発症するショック。
・「心タンポナーデ」「肺塞栓」「緊張性気胸」などにより引き起こされる
・「心拍出量低下」⇒ 「頻脈」
・「意識低下」「顔面蒼白」「冷や汗」「呼吸が苦しい」
・外科手術などにより、原因を除去する必要がある
㋔心原性ショック
心筋梗塞や不整脈など,心臓自体のポンプ機能障害により引き起こされるショック。
・「胸痛」や「動悸」「心窩部・頸部・背部などへの放散痛」など要注意
・「心臓振盪」でも起こる
(心臓への衝撃(鈍的損傷)⇒「心室細動」⇒「不整脈」⇒「頻脈」⇒「血圧低下」)
・緊急に「AED」を行うことが唯一の治療法
③ ショックの症状
ショックが起こった時には、以下のような症状(徴候)が現れます。
≪ショック5徴候 (ショックの5P’s)≫
1.皮膚・顔面蒼白(Pallor)
2.発汗・冷や汗(Perspiration)
3.肉体的・精神的虚脱(Prostration)
4.脈拍微弱(Pulselessness)
5.不十分な促迫呼吸(Pulmonary insufficiency)
こうして挙げてみると、すべて血流障害に由来する症状であることがわかりますね。
他にも「意識レベルの変化(感情的)」が現れることもあります。
これは精神的な不安で起こるというよりも、脳血流量の低下や代謝性変化により血液が酸性に傾いた状態になったり、心筋梗塞や気胸等による疼痛などで起こったりすると考えられます。
また、呼吸は主に「頻呼吸」を呈します。
これはショックによって血液が酸性に傾いた状態になり、その代償として過呼吸になって、血中二酸化炭素を排出し、アルカリ性にしようとする結果として起こります。
ショック時は、血圧や脈拍のチェックも大事ですが、負傷者が感情的であったり、呼吸数が1分間に20回以上なら、他のバイタルサインや「ショックの5徴候」からショックを疑った方が良いでしょう。
④ ショックを疑ったら
もし、ショックを疑ったら「脈の触診」をします。
このとき、「総頚動脈」が触れない場合は収縮期血圧60mmHg以下、「大腿動脈」で触れれば70mmHg以上、「橈骨動脈」で触れられれば80mmHg以上と判断できます。
(ショック時は収縮期血圧が90mmHg以下、あるいは通常の血圧より30mmHg以上低下)
左右差もチェックしましょう。
総頸動脈60mmHg → 大腿動脈70mmHg → 橈骨動脈80mmHg
『脈拍数』も重要です。
脈を触れながら時間を計って数えましょう。
この時、一分間に40回以下、または100回以上であれば異常として扱います。
脈拍数:一分間に40回~100回
また、『リフィリングタイム』も確認しましょう。
これは、末梢血流を確認するもので、爪を圧迫して、白くなった箇所に赤みが戻るまでの時間をみます。
この時、正常であれば「二秒以内」に赤みが戻りますが、戻らないのであれば血流量の低下を疑います。
『リフィリングタイム』爪を押して、2秒以内に色が戻るか
他にも「乏尿・無尿」になっていないか、「発熱」はないか等もチェックします。
⑤ ショックの重症度判定
ショック時の重症度判定としては『ショック指数 Shock index』を用います。
これは主に「出血性ショック」の初期評価として使われますが、特別な器具や装置がなくても算出可能です。
血圧計がなくても、おおよその値は計算可能できますので、スポーツ現場でも計算可能です。計算方法は以下の通り。
ショック指数=脈拍数/最高血圧
「0.5」=正常(心拍数が60回/分、収縮期血圧が120mmHgとした場合)
「1.0」=軽度 ※ここからショックとして認知
「1.5」=中度
「2.0」=重症
出血性ショックの場合、初期の段階では生体反応として交感神経が刺激されて、「心拍数・心筋収縮力増加」「末梢血管収縮」も起こることで収縮期血圧が維持されます。
そのため、収縮期血圧だけではショックを見つけることが出来ませんが、ショック指数を用いることで、ショックをいち早く発見することが出来ます。
⑥ ショック時の対応
ショック時は速やかな対応が求められます。
①早期のショック認知
②救急車・AEDの要請
③止血(外出血があれば)
④ショック体位(※下図参照)
⑤保温(低体温が長引くと予後不良)
⑥CPR準備
⑦観察継続
⑦ 最後に
いかがでしょうか。
ショックも実に様々な原因で引き起こされますね。
僕もそうですが、実際にショック症状を目の当たりにされた方は少ないでしょう。
特にスポーツ現場に限れば、なかなか遭遇しないのかもしれません。
ただし、万一起こった場合を考えると「脊髄損傷」や「心臓振盪」など、非常に重篤で予断を許さない状況であることは間違いありません。
もしもの時のためにも、ショックについても理解を深めておかなきゃ、と考えながらまとめました。