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院長コラム

第68回【スポーツ現場における『全脊柱固定』】

投稿日:

今回は『全脊柱固定』について。

①『全脊柱固定』とは

 

「全脊柱固定」とは聞きなれない方も多いと思いますが、その名の通り「すべての脊柱(背骨)を固定する」処置のことを意味します。

これは『ロード&ゴー(注1)』で救急搬送する場合などに救急隊員が行う処置の一つで、交通事故のような「高エネルギー外傷(注2)」等、主に重症例にて施されます。

 

注1)『ロード&ゴー』 

生命に関わる損傷が疑わしい場合、「最低限必要な観察・処置」のみを行って、5分以内に救急車に収容、迅速に病院搬送を行うと言う考え方。

「ロード&ゴー」が救護者によって判断・宣言されたら、一時間以内(ゴールデンアワー)に手術等の根本的な治療を行えることを目指して、生命に危険のある損傷の処置を最優先、他の観察・処置は後回しにするか、省略する。

 

2)『高エネルギー外傷』 

「高所からの転落」や「車にはねられた」など、強い衝撃を受けて発生した外傷の事。

生命危機の可能性を含んでいることが少なくない為、特に注意を要する外傷である。

 

② スポーツ現場における全脊柱固定

 

スポーツ現場において全脊柱固定が必要となる場合はどんな時でしょうか。

ラグビーでのぶつかり合いのように激しい衝撃によって負傷した場合は「高エネルギー外傷」として扱われますが、その重症例の多くは頭頚部の損傷です。

 

頭頚部外傷発生時の流れをみておきましょう。

 

【頭頚部外傷救急対応の流れ】

発見 ⇒ 負傷者の顔がある方向から近づく ⇒ 頭部固定 ⇒ 評価(状態確認) ⇒ 処置 (場合によって救急搬送)

 

この流れの中で重症が疑われれば「全脊柱固定」を施します。

(必要に応じて「ロード&ゴー」も実施)

 

中でも、「頚椎(髄)」を損傷している疑いがあれば、全脊柱固定は必須の処置となりますが、それも含めた固定実施の判断基準として『NEXUS(ネクサス)』と言うものがありますのでご紹介します。

 

③ 『NEXUS

 

NEXUS』は、頚椎損傷が疑われる際に「ネックカラー使用」や「レントゲン撮影」が必要か判断するためのスクリーニング(篩い分け)法です。

 

5個の項目の内、一つでも当てはまれば全脊柱固定の対象として扱います。

逆に当てはまらなければ、対象外として扱って、不要な処置や検査を省く目的もあります。

確認する項目は以下の通りです。

 

【NEXUS (Natinal Emergency X-radiography Utilization Study)

Neurological deficit  神経学的障害(運動障害、感覚障害)

Spinal midline tenderness 脊柱部の痛み(背骨の圧痛など)

Altered mental status 意識障害(JCS10以上)

Intoxication 薬物使用の可能性(中毒症状で所見が取れない)

Distracting injury その他の外傷(患者の注意を乱すような損傷が存在する)

 

上記頭文字をとって「エヌセッド」とも呼ばれ、頚椎損傷の除外診断として信頼性が高く、スポーツ現場でも活用されています。

但し、確定診断としての精度は低いため、CTやレントゲン等の画像診断が必要です。

 

また「負傷者の年齢」や「受傷機転(例:高エネルギー外傷であるか否か)」等のリスクについてカバーされていない課題もあると言えます。

 

これ以外のスクリーニング法として『Canadian C-spain Rule』と言うものもありますのでご紹介しておきます。

 

④ 『Canadian C-spain Rule

 

【Canadian C-spain Rule】

 ・ハイリスク:「65歳以上」「危険な受傷機転(高エネルギー外傷など)」

「四肢に麻痺や痺れ、異常感覚がある」

 

-以上の点が無い場合、ローリスクへ進む(あれば固定実施)

 

・ローリスク:「横転や高速度などで無い単純な自動車事故」「歩行可能」

「頚椎痛無し(圧痛含む)」「座位可能」

 

-これらに当てはまれば、次の確認進む(異常あれば固定実施)

 

・確認「左右に45度自動回旋できるか?」

 

-もし出来なければ、やはり固定実施

 

Canadian C-spain Rule』は、カナダで考案されたもので、カナダ国内の12ヵ所のER(救命救急)で12千例を対象に無作為化試験を行って、無駄な検査を省く効果が認められたものです。

但し、NEXUS同様に除外診断としては有効ですが、確定診断としての精度は低いことは認識しておきましょう。

 

 

⑤ 全脊柱固定資器材

次に「全脊柱固定」の実践について説明します。

 

全脊柱固定をする際に、必要な資器材は以下の通りです。

  あ・ネック(頚椎)カラー:頚椎を固定する(プラスチック素材)

  い・スパインボード:脊柱固定用の担架(ストラップ固定用の穴が開いている)

  う・ヘッドレストパッド:頭部のクッション

  え・頭部固定パッド&ストラップ:頭部を固定する(頚椎中立位)

  お・体幹固定ストラップ:スパインボード上に負傷者の頭部・体幹部を固定する

 

 

では固定実践に入っていきましょう。

 

 

⑥ 固定実践

 

全脊柱固定はまずネックカラーから行います。

 

1、『ネック(頚椎)カラー固定』

≪装着時の注意点≫

・二人以上で固定を行う(頭部固定一名、カラー装着一名)

・症状悪化、本人の不安感・抵抗感、気道閉塞、装着困難時は中止

・装着中も負傷者を観察し続ける

・装着後も頭部固定継続

・原則として「頭頚部が正中線上、中立位」にある場合に使用する

 

 

ネックカラー固定時に「頭頚部が中立位で無い」場合は、一旦「中立位にして」から装着します。

腹臥位の場合は「ログロール」であお向けにしてから中立位にしてから固定します。

もし、どの場合でも痛みなどにより「中立位が出来ない」のであれば、そのままの状態でスパインボードでの固定に入ります。

 

2、『スパインボード収容』

次にスパインボードへの移乗です。

実はこの時は脊柱が不安定になりやすくて、最も危険性の高い時です。

極めて慎重にやらなければなりません。

 

と、その前に

まず始める前に忘れてはいけないのが、『ヘッドレストパッド』を予めスパインボードにセットしておきましょう。

もし、これを忘れていたら、移乗した負傷者を再度動かさなければならない事態に陥ります。

また負傷者を把持して持ち上げる際には、隣の救助者と腕を交差するようにしてください。その方がより安定します。

 

 

移乗方法は『フラットリフト法』と『ログロール法』の二つがあります。

 

『フラットリフト法』は負傷者の背中にしっかりと手を入れて持ち上げて、足側から負傷者の下へスパインボードを滑り込ませる方法です。

 

一方の『ログロール法』は、負傷者を「一本の丸太」に見立てて、転がすようにスパインボード上へ移乗します。

それぞれの特性をみていきましょう。

 

 

≪フラットリフト法≫

・身体を回転させない分、脊柱へのリスクは少ない

・負傷者の姿勢・・・「仰向け」時のみ

・救助者人数・・・・4人以上

・救助スペース・・・「負傷者身長+スパインボード全長」の長さが必要

 

≪ログロール法≫

・身体を回転させるので、脊柱へのリスク高め

・負傷者の姿勢・・・「仰向け」「うつぶせ」どちらでも

・救助者人数・・・・3人以上

・救助スペース・・・「負傷者体幅+スパインボード幅」の長さが必要

・その他・・・・・・凹凸のある場所では不向き

 

 

以上のように、それぞれの特性がありますので、これらを踏まえた上で、負傷者の状況や周囲環境、救助人員によって適した方を選択します。

もし、移乗した際に負傷者がずれているなど、スパインボード上で動かす場合はボードを固定した上で、負傷者を移動させます。

 

危険を伴うスパインボードへの移乗では、どの方法で実施するにしても「頭部固定者が体幹保持者と息を合せてバラバラにならないように行わなければなりません。

リーダーが、早め早めに、具体的な指示を出しながら行いましょう。

 

3、『パッド&ストラップ固定』

スパインボードへ移乗したら、次はパッドやストラップで固定します。

移乗が済んだら、まず頭部パッドを頭部の両側にセットして、負傷者の体格に合わせてストラップをボードの穴に通します。

この時、両側「ボード上の同じ高さ」に通すように注意してください。

複数人でやっている場合は対向者と確認しながら。

通せたら次は締めて固定です。

その際には順番が決まっており、それに従い実施します。

 

①骨盤部 ⇒ ②下肢 ⇒ ③肩胸 ⇒ ④頭部 

 

※②下肢は足底部にも絡めて負傷者の縦方向へずれるのを防ぐと良い

 

固定が出来たら「負傷者の意識・呼吸・循環」などを確認しつつ、ストラップ固定にゆるみが無いかチェックします。

もしゆるみがあれば、ボード上で負傷者がずれ動いてしまう「スネーキング」の原因となるので、しっかり締めておきましょう。

 

 

⑦ 傷病者の運搬

固定が完了したら、負傷者の運搬です。

運搬にあたり、まずリーダーがブリーフィングを行います。

 

「これから1・2・3で持ち上げて、足側から、あそこの○○を通って、あの○○に運びます。」

 

と言うように、皆に具体的に伝達・周知します。

 

運搬の際に心掛けることは以下の通り。

 

≪運搬時の心掛け≫

・ボード側の手は「順手」で持つ

・両手で持つ

・「負傷者の足側」から前に進む

・進行方向やスピードを伝達して合わせる

「掛け声に足を合わせていきましょう。1・2、1・2、1・2...」

・障害物などがあれば、逐一報告&指示

「穴が開いているので、右に避けましょう」

・ストップして地面に降ろす際には、両手で持ってから実施。

 

運搬時も傷病者の観察を忘れてはいけません。

 

もし嘔吐がある場合は、一旦地面に降ろして、ボードに載せたままログロールして対応します。

心肺停止の疑いが有れば、すぐに確認して、必要に応じてCPRをただちに行います。

 

重症頭頚部外傷では状態が急速に悪化することがありますので、常に予断を許さない状況ととらえておきましょう。

意識があるうちに『GUMBA』等の情報もとっておくべきです。

その情報を救急隊へ引き継ぐことが、命を救うことになるかもしれません。

 

 

⑧ 最後に

 

最後に、2015年に米国救急学会によって出された注意喚起をご紹介します。

それは全脊柱固定によるリスクについてです。

 

全脊柱固定をすることによって「気道傷害」「呼吸機能障害」「組織虚血」「頭蓋内圧の上昇」「疼痛の増加」などが起こるケースが報告されていて、これらの発生により結果的に「画像診断の増加」「死亡率の増加」につながりかねないと指摘しています。

したがって、全脊椎固定はNEXUSあるいはCCR基準に合致する場合に考慮され、明らかな鈍的外傷と次のような症状に使用されるべきだとしています。

 

・意識レベルの変化、

・臨床的中毒症状があって所見がとれない

・正中線脊椎痛や圧痛あり

・局所的神経原性の徴候や症状あり

・脊椎の解剖学的変形あり

・神経引き抜き損傷の時

 

 

以上で『全脊柱固定』についての解説は終わります。

僕は実際に全脊柱固定を行ったことはありませんが、実際に起こった場合を想定しながら書きました。

備えあれば憂いなし。

やはり訓練あるのみですね。

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