今回はスポーツ現場におけるCPR(心肺蘇生)についてまとめます。
① スポーツにおける心停止の原因
身体に負担をかけるスポーツは運動能力を高めたり、健康や美容にも貢献します。
しかし、その一方でやり過ぎによる故障や不慮の事故を招くリスクもあります。
もっとも怖いことは命を失う『心停止』ですが、スポーツにおける心停止はいくつもの原因から起こり得ます。
1)非接触性での心停止 (ランニング中など突然発症 “胸が苦しい” )
心筋梗塞などの虚血性心疾患、心室細動(※)など致死的不整脈
2)胸部打撲
心臓振盪(※)、気胸
3)頭頚部損傷 (通常は「意識消失」などの後に遅れて発生)
中枢神経損傷
心停止に至った原因が、上記のどれだとしても処置は同じです。
ただちに『CPR(心肺蘇生法)』を実施しなければなりません。
※『心室細動』・・・心臓の心室が1分間に300回以上不規則に震えるように痙攣(けいれん)を起こした状態。起こったらただちにAEDで心臓を正常のリズムに戻さないと、そのまま死に至る最も危険な不整脈である。
※『心臓振盪』・・・胸部にボールがぶつかるなど、衝撃が加わった結果「心室細動」を起こしてしまった状態で、そのままにすると死に至ってしまう。
比較的弱い衝撃で、ぶつかるタイミングによって心室細動が起こると考えられている。大人よりも胸郭が柔らかく、心臓に衝撃力が伝わりやすい子供に多い傾向がある。
② なぜCPRが必要か
体内のすべての臓器は細胞によってつくられています。
その細胞たちの活動は、すべて血流によって運搬される栄養素や酸素などによって支えられています。
その血流を全身に送り出すのが心臓の働きですから、心停止が起こると言うことは血流のストップを意味します。
血流が止まってしまえば細胞はじめ臓器は働けなくなり、最終的に生命維持も出来なくなります。
各臓器の「虚血許容時間※」を参考までにご覧ください。
脳:3分
心臓:15~30分
腎臓:30~60分
肝臓:30~60分
膵臓:60~90分
胃腸:120分
皮膚:180~360分
筋:180~360分
いかがですか。
「脳」がかなり短いことがわかりますね。
つまり、心停止が起こった際に3分以内に脳へ血流を送ってあげないと、すぐに「脳死」してしまうことを意味しています。
これに対して、要請を受けた「救急隊」が到着するまでの時間はどれくらいでしょうか。
平均で「8.5分」だそうです。(H28年度実績)
したがって、救急隊に引き継ぐまでの数分間、現場での対応いかんが負傷者の予後に多大な影響を与えるのです。
救急隊を待つ間に、血流を少しでも回復させて脳や心臓を守る手段として、CPRは絶対に欠かせない処置です。
③ CPRの流れ
スポーツ現場においてCPRを行う場合、以下のような流れになります。
負傷者発見(顏正面から近づく・頭部固定・呼びかけ)
↓
「反応(意識)なし」
↓
大声で周囲へ知らせる(応援要請、119番、AED)
↓
気道確保・呼吸確認
↓
「呼吸なし」
↓
CPR(胸骨圧迫+人工呼吸)開始
↓
AED到着・装着・電源ON(心電図自動解析・電気ショック)
↓
AEDの指示に従う(CPR再開+解析+電気ショック)
↓
救急隊到着・引き継ぎ
上記の流れにおける『一次救命処置』の要点は、
☆「救急隊の到着を少しでも早くする」
☆「(引き継ぐまで)質の良いCPRを実施する」
の二点に尽きます。
これらはスポーツ現場に限らず、すべての状況において共通ですね。
そのためには「複数の人員で協力しあう」ことが重要で、これは救助者本人の心理的負担の軽減としても有効です。
CPRは「胸骨圧迫」と「人工呼吸」の二つから構成されます。
それぞれ見ていきましょう。
④ 胸骨圧迫
胸骨圧迫は以下のポイントを踏まえながら行います。
≪胸骨圧迫実施のポイント≫
「仰向けで」・・・できるだけ平坦で固めの地面の上で行う
「手根部で」・・・両手を合わせ、手根部(手のひらの基部)で押す
「胸の真ん中」・・・ 胸の真ん中(胸骨下半分部分)を押す
「垂直に」・・・傷病者の胸に対して垂直に力を加える
「強く速く絶え間なく」・・5~6㎝の深さまで、100~120回/分、交代時も中断せず
「リコイル」・・・圧迫しての「胸の戻り」を確実に待つ
「30回」・・・胸骨圧迫30回、人工呼吸2回とセットで繰り返す
※負傷者の身体が大きくて垂直に圧迫できない場合→両脚でまたいで真上から押す
※乳幼児:体格に合わせて片手、二本指で押す
次に胸骨圧迫をする際の注意点です。
≪胸骨圧迫時の注意点≫
・圧迫を開始してから10回程度は臓器への効果的な血流変化は起きない
・圧迫を中断すると一気に血圧が下がる
・できるだけ応援者を集める
・疲れると圧迫の質が低下するので、できるだけ2,3サイクルで他応援者と交代する
・交代の際は数を数えながらタイミングを計るなど、間を開けないようにする。
・負傷者の胸部が濡れていたら、すべりやすいので拭きとってから実施する
※「中断は10秒以内」:開始時の「有効でない10回」と合わせると約20秒の脳虚血状態となるので極力中断しないように実施する。
心停止時に有効な処置である胸骨圧迫ですが、理想的に行えたとしても「安静時心拍出量の約30%」しか得られず、これは「安静時冠血流量の約35%」「安静時脳血流量の約40%」程度でしかありません。
したがって、かなりしっかりと強い力で圧迫を加えなければならないことも覚えておきましょう。
また、テンポは意外に速いことも覚えておくべきです。
僕が教わった時「もしもし亀よ♪亀さんよ♪」と言う歌のリズムでやることを紹介されました。
いずれにせよ、身体で覚えられるように練習しておくべきでしょう。
⑤ 人工呼吸
次に「人工呼吸」です。
人工呼吸は原則として『口対口(マウス・トゥー・マウス)』で行います。
準備があれば専用防具を使って、口が直につかないようにして実施します。
ポイントをみてみましょう。
≪人工呼吸のポイント≫
「気道確保」・・・空気が入りやすいように保つ
「密閉」・・・負傷者の口を覆い密着させる
「約一秒」・・・・約一秒かけて息を吹き込む
「胸で確認」・・空気が肺に入っているか、負傷者の胸の上りで確認する
(もし上がらなければ再び気道確保してやり直し)
「待つ」・・・口を離し、入った空気が自然に吐き出されるのを待ってから次へ
「2回」・・・胸骨圧迫30回、人工呼吸2回とセットで繰り返す
人工呼吸は一見簡単そうに見えますが、実は習熟が必要な手技です。
そのため緊急時にいざできるかと言えば、上手にできない可能性もあります。
また、防具を使用しなくても感染症リスクは低いとされていますが、気持ち的に抵抗感が強い方も多いため、無理に行わなくて良いことになっています。
その場合は「胸骨圧迫」に専念しましょう。
※乳児の場合は、乳児の口と鼻を一緒に密閉して行う「口対口鼻人工呼吸法」を行います
⑥ AED
次にAEDについてみていきましょう。
AEDは「自動体外式除細動器」と言って、その名の通り(心室)細動を電気ショックを用いて取り除き、心臓を元のリズムに修正させる装置です。
スポーツによる突然死の多くは心室細動によるものですから、AEDも極めて重要な処置です。
AEDは心臓の動き(心電図)を自動解析して、電気ショックが適するか否か判断します。
本体を出したら、まず「電源をON」にして、以後音声指示に従います。
次に「電極パッドの装着」が必要ですが、その際は以下の点に注意します。
≪AED装着時の注意点≫
「場所」・・・胸の右上(鎖骨の下で胸骨の右)と胸の左下側(乳頭の斜め下)
「密着させる」・・・電極パッドは肌に密着させて貼り付ける
「濡れてる」・・・装着場所が汗や水で濡れていたら通電不良となりやすいので拭く
(電極パッドが水に触れていなければOK)
「貼り薬」・・・湿布など、貼り薬はやけどの危険があるのではがす
「ペースメーカー」・・・ペースメーカーが入る胸の出っ張りを避けて装着
「胸毛」・・・胸毛が多いとパッドが身体に密着しにくいので、除毛が必要
(多くの場合、AED内レスキューセットにカミソリが入っている)
「金属」・・・パッドにネックレス等金属が当たると通電不良や危険性もあるため、
出来るだけ取り外すかカットする。(AED内に専用はさみ)
「不安定」・・・動く車内など、揺れていると解析が正しく行われない可能性あり
「女性への配慮」・・・周囲から目隠しをして行うなど、配慮する
「小児用」・・・成人用(小学生以上)と間違わないようにする
(成人用しかなければ、それを使用)
電極パッドが装着出来たら、その「ケーブルを本体へ接続」します。
そうすると自動的に「心電図解析」が始まりますが、その際には誰も負傷者には触れてはいけません。
解析の結果、「電気ショック」が必要と判断されれば、音声ガイドで指示が出ます。
誰も傷病者に触れていないことを再確認し、再度注意を促した上で指示に従い(電気ショック)ボタンを押します。
その後、「胸骨圧迫」の指示が出るので、それに従いCPRを再開します。
再開後、約二分が経過すると再びAEDによる自動解析が行われ、その結果により指示が出て、回復するまでこれが繰り返されます。(もしくは「救急隊に引き継ぐまで」)
以上、ここまでがCPR(+AED)の流れですが、いざと言う時への備えを挙げておきましょう。
⑦ いざと言う時の為に
いざと言う時、備えの有無が運命を分けることもあります。
・想定して実施訓練をしておく
・「人工呼吸用シートを準備」しておく
・「現地の名称、地番」を把握しておく(救急要請時のために)
・「AEDの所在」を確認しておく
・事前に選手の「血液型・アレルギー・内服薬・既往歴・体調など」を把握
しっかり備えておきましょう。
最後にポイントをまとめます。
⑧ まとめ
・負傷者の意識が無ければ、ただちに応援を呼び、救急車、AEDを手配する
・複数人員で協力し合う
・呼吸確認、無ければCPR開始
・「胸骨圧迫×30回」「人工呼吸×2回」を1セットとして行う
・人工呼吸実施が抵抗あれば胸骨圧迫だけでも行う
・「強く・早く・絶え間なく・リコイルしっかり」実施する
・出来るだけ2,3セットで他者と交代する(交代時は10秒以内)
・「回復が確認」されるか、「救急隊への引継ぎ」がなされるまで継続する
以上でCPRについての解説を終わりますが、スポーツ現場にならではの特殊な条件(地面状況やユニフォーム、多量の汗など)を除いては一般的な場合となんら変わることはありません。
何よりも、いざと言う時に冷静に、スムーズに、実施できるべく備えておくことが大事ですね。
選手は勿論、家族や危機に瀕した方も守ってあげましょう。