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院長コラム

第65回【スポーツ現場の頭頚部外傷対応】

更新日:

前回は【スポーツ現場での救急対応】について、実際の流れをもとに概説いたしました。

そこでも紹介したようにスポーツ現場で遭遇する外傷は様々な種類がありますが、私達トレーナーが試合に臨む時に最も恐れるのが「頭頚部外傷」です。

今回はこの「頭頚部外傷」の救急対応について、少しつっこんで書いていきます。

 

① 頭頚部の構造

 

頭頚部には脳脊髄は勿論、血管や末梢神経、気道など重要臓器が混在しており、生命維持にとって絶対に欠かせない場所です。

 

しかし、頭頚部は構造的な弱点があります。

頭部はヘルメットのように、頑丈な頭蓋骨で脳が守られているので、直接的な衝撃には相当な耐久性を備えています。

 

問題は、それを支える頚部です。

頚部を構成する頚椎は背骨の中で最も大きな可動性を有しています。

大きな可動性は、顔だけを動かしてあらゆる方向を見ること出来ると言うメリットがありますが、反面デメリットもあります。

それは衝撃など、外力に対して脆弱であることです。

 

前述のように、頚椎は背骨の中で最も大きい可動性を有していますが、同時に、最も細い部分でもあります。

そこに5,6㎏、体重の約10%の重さがある頭部を載せているわけですから、決して安定していると言うことはできません。

ちょっとした衝撃でも首が動かされやすく、その結果頭が振られます。

したがって、頭蓋骨は頑丈でも、その中で脳が揺さぶられたりしやすいわけで、それが脳震盪の原因の一つにもなります。

また、頭頚部に加わる外力に対して頚椎が弱いと言うことについては説明の必要はないでしょう。

 

 

② 頭頚部外傷時、考えられること

コンタクトスポーツなどでは激しく身体をぶつけ合います。

そのようなプレーで負傷した場合、交通事故と同様「高エネルギー外傷」として扱われます。

強い衝撃が頭頚部に加わった場合、どんなことが起こり得るでしょうか。

下記をご覧ください。

 

・頭蓋骨折

・脳震盪

・頭蓋内出血(急性硬膜下血腫)

・脳挫傷

・頚髄損傷(首の脊髄損傷)

・頚椎骨折(ジェファーソン、チャンス、ハングマン、ティアドロップ、圧迫など)

・頚椎脱臼(環軸関節脱臼、脱臼骨折など)

・末梢神経損傷(バーナー症候群、椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症)

・頚部捻挫(靭帯損傷)

・頚部筋挫傷(筋肉損傷)

・その他(たんこぶ、出血)

 

選手が頭頚部外傷を起こした際には、これらの可能性を考えて対応しなければなりません。

中でも脊髄へのダメージは一旦傷めると深刻なものとなりやすいため、特に注意が必要です。

 

③ 脊髄損傷時に起こる症状

 

特に注意が必要な脊髄損傷ですが、見極めるためには症状も知っておく必要がありますので見ておきましょう。

 

頚髄を含む脊髄損傷では「どの高さで傷めるか」が、現れる症状に直結します。

症状と脊髄損傷高位(疑い)について具体例を見ていきましょう。

 

◎「呼吸停止」3頚髄より上位での損傷 → 横隔膜 & 肋間筋麻痺

◎「腹式呼吸」(おなかしか動かない):1頚髄以下での損傷 → 肋間筋麻痺

◎「上下肢麻痺」48頚髄付近での損傷 → 感覚障害 運動障害

◎「徐脈」1胸髄より下位での損傷 → 交感神経麻痺 → 末梢血管弛緩

◎「血圧低下」1胸髄より下位での損傷 → 交感神経麻痺 末梢血管弛緩

◎「体温上昇」1胸髄より下位での損傷 → 交感神経麻痺 末梢血管弛緩

◎「下肢麻痺」1胸髄~第3腰髄間での損傷 → 感覚障害 運動障害

◎「下腿(膝下)麻痺」4腰髄以下での損傷 → 感覚障害 運動障害

◎「膀胱直腸障害」35仙髄以上での損傷 → 失禁・尿閉・脱糞

 

脊髄損傷時には症状からある程度の損傷高位が予想できるとも言えます。

ただし、脊髄は上から下へつながっている神経であることも忘れてはいけません。

つまり、損傷した場所より下の脊髄もすべてダメージを受けるため、下位損傷時に発現する症状は「すべて発症してくる可能性が高い」と言うことを意味します。

頭頚部外傷時は、「頚髄損傷があるもの」として、対応するようにします。

 

 

④ 「正面」から近づく

 

前回コラム【スポーツ現場での救急対応】でも書きましたが、頭頚部を負傷したと思われる選手を発見した際には選手の顏の正面から近づくように心掛けます。

これは「二次損傷リスク」を回避することが目的です。

 

特に頚部を傷めていると、頭頚部を動かすことはとても大きなリスクを伴います。

頚椎骨折していれば、動かすことで骨がずれて脊髄損傷を起こすかもしれません。

すでに頚髄損傷していれば、動かすことで重症化させてしまいかねません。

 

もし重症化させれば、回復するのは極めて困難で、重篤な後遺症の原因となります。

それを防ぐためにも顔を動かさせないように正面から近づきます。

 

選手のもとへ到着した際、倒れこんだままだったりして頭頚部外傷が疑われれば、ただちに「頭部固定」を行います。

 

 

⑤「頭部固定」

 

「頭部固定」は、倒れている選手に対して手で行います。

固定法は状況に応じて選択しますが、最も安定するのは頭頂側から行う方法です。

【用手的頭部固定法の手順】

①傷病者の正面(足側)から接近、頭側に位置

②片・両膝をつく

③指の間から負傷者の耳がでるように

④肘を固定

 

頭側にスペースが無かったり、一人で対応しなければならず「気道確保」も行う場合などは顔側からの固定を行います。

頭部固定時はたとえ捻じったりしなくても、牽引や圧迫などの力も加えないようにします。

 

また固定時に次のようなトラブルが発生した場合は臨機応変に対応します。

 

△「パニック」

この時に負傷選手が「パニック」を起こすなど、暴れたりして勝手に動くような場合では、無理に固定するとかえって危険が増してしまいます。

その際には胸など身体を抑えて声掛けなどして、落ち着かせた上で固定に入ります。

 

△「嘔吐」

固定中に選手が「嘔吐」してしまう場合は嘔吐物を除去することが最優先です。

窒息の危険があるからです。

救助者が複数人いれば、協力し合い、頭部固定したまま横向きにさせますが、頭頚部と胴体を一体にして動かすように慎重に行わなければなりません。

 

△「うつ伏せ」

負傷者がうつぶせで倒れている場合はそのまま頭部固定を行います。

その上で呼吸を確認して呼吸していればそのまま、いなければ仰向けにします。

 

頭部固定時からは複数人での対応が望ましいです。

「状態確認」を行う際にも、出来るだけ他の人に頭部固定を代わってもらいます。

手を空けてから行った方がより正確に評価できるでしょう。

また、上記のようなケースでは特に複数人での対応が望ましく、皆で呼吸を合わせて体位変換を行う必要があります。

 

万一、一人で対応しなければならない場合は、やむを得ないので顔だけ横に向けて気道を確保するなど、命にかかわるものから優先して対応します。

(例:頚髄損傷<窒息による気道閉塞)

 

また、頭頚部外傷が疑われるのに、選手が自分で勝手に立ち上がってしまっていたら、そのまま頭部を動かさせないよう固定して評価に進みます。

 

 

⑥ 評価(状態確認)

 

頭部固定を行えたら、状態評価をしていきます。

救急対応の場合、評価と処置は一体ですすめていきます。

流れとしては以下の通り。

 

①気道評価:発語はあるか?あればOK 不十分なら気道確保

(頚部を動かさない「下顎挙上法」を優先する)

 

②意識評価:呼びかけへの反応をみて大まかに評価

JCS (Japan Coma Scale)

I 刺激しないでも覚醒している状態

1点:だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない

2点:見当識障害(自分がなぜここにいるのかなど状況が理解されていない状態)

3点:自分の名前、生年月日が言えない

II 刺激すると覚醒するが刺激をやめると眠り込む

10点:普通の呼びかけで容易に開眼する

20点:大きな声または体をゆさぶることにより開眼する

30点:痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する

III 刺激をしても覚醒しない状態

100点:痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする

200点:痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる

300点:痛み刺激に反応しない

 

この内「JCS10(点)以上」は緊急性の高い状態として対応し、「救急車・AED」の手配もしておいた方が無難です。

JCS20(点)以上」ではただちに「気道確保」を行い、救命処置に備えます。

(他にもGCSと言う有名な分類法がありますが、ここでは省きます)

 

 

③呼吸評価:胸郭の動きをみて、呼吸の有無、深さ、早さも評価。

例)頚髄損傷→呼吸停止・呼吸困難・腹式呼吸

 

④循環評価:橈骨動脈の脈拍で触知。脈の強さ、速さを評価。

例)ショック → 速く弱い脈&皮膚蒼白&冷たく湿っている

      例)頚髄損傷 → 徐脈

 

⑤体温:皮膚温で判断(ショックも注意)

例)脊髄損傷 → 妙に温かい(後に冷たくなる)

 

 

⑥全身状態:『頭部→頚部→体幹部→下肢→上肢』の順番で評価。

例)骨折・脱臼 → 頭頚部に変形

例)頚椎骨折 →  頚部圧痛(あくまで軽く、慎重に、一回だけ)

例)脊髄・末梢神経損傷 → 感覚・運動障害

 

 

※ 活動的な出血があれば直ちに止血

 

                                                                       

GUMBA(グンバ):症状急変時に備えて情報聴取しておく。

GUMBA

G「原因」:「どこをどのようにして傷めた?」→ その後の診断や処置に有効

U訴え」:「どんな辛さ(自覚症状)があるか?」→ 症状把握に必要

M「めし」:「胃に内容物があるか?」→ 緊急手術などの場合に嘔吐リスク

B「病気」:「過去に病気は?」→ 持病や内服薬など、対応時に考慮が必要な場合も

A「アレルギー」:「アレルギーは?」→ アナフィラキィシーショック対策に役立つ

 

 

 

離握手(りあくしゅ):握るだけでなく、離させることで意識や運動機能を確認する

【離握手】

1、負傷者の手を握る 「手を触りますよ」

2、握手するように指示する 「握ってください」

3、握手した手を離すように指示する 「離してください」

 

 

 

以上が評価の流れですが、上記は必ずこの通りにやるとは限りません。

必要に応じて省き、順番変更するなど、臨機応変に対応します。

その上で総合的に判断し、重症と判断されれば直ちに「救急隊要請」及び「AED手配」をして、全脊椎固定や救命処置(準備)に入ります。

 

今回はここまで。

 

⑦ 最後に

 

「もっと訓練しておかなきゃ」と自戒しながらまとめてみました。

最も怖い頚髄(脊髄)損傷はどんなに激しい競技においても決して多くはありません。

(僕も遭遇したことはありません)

だけど、「あり得る」わけで、特にラグビーなどコンタクトスポーツにおいては、そのきっかけとなる頭頚部への外力は日常茶飯事で起こっています。

(脳震盪は、疑いも含めてけっこうあります)

 

「もしもの事態」を想定して、私達トレーナーや指導者は勿論、選手やマネージャーなど競技関係者も対応出来るようにしておくことが望ましいです。

訓練を受けた救助者が多いほど、質の高い救急対応が可能となりますので。

 

現実的に、人数が必要になる「全脊柱固定」や「CPR」については、すこし深掘りしたいので別で書きますね。

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