以前のコラム【腰痛を引き起こす力学的ストレス】で腰痛を引き起こす力学的ストレスの種類として
①伸張ストレス
②圧縮ストレス
③剪断ストレス
を挙げました。
これまで①②と解説しましたので、今回は③の剪断ストレス。
剪断力で起こる腰痛 について解説いたします。
剪断力と仙腸関節
剪断とは
「接している物体同士のある面に沿って両側部分を互いにずれさせるような作用」
のことです。
私達の身体活動においても剪断力は関節などにかかります。
特に「仙腸関節」は構造的に剪断力がかかりやすい場所です。
骨盤の真ん中にある「仙骨」と
両サイドにある二つの「腸骨」から構成されているのですが、
関節面は比較的平らで「縦方向」に存在しているのです。
そこに二つの、真逆方向のストレスが日頃から加わります。(下記)
上から下へ:背骨から仙骨へと伝えられる体重負荷
下から上へ:脚を通して腸骨へとかかるの床反力
この両者の境目が「仙腸関節」となるのですから、
強大な剪断ストレスに曝されていることは想像するに難くないでしょう。
身体の中には、他にも剪断ストレスがかかりやすい関節などはありますが、
ここまで強く、頻繁に加わっている場所はありません。
「仙腸関節」は、間違いなく剪断ストレスの代表的な部位と言えるでしょう。
そりゃあ腰痛が起きやすいわけですよね。
しかし、仙腸関節もそうやすやすと負けるわけではありません。
剪断ストレスに負けないように頑丈な分厚い骨と強靭な靭帯によって固定されています。
可動性を犠牲にして、体重を支えられるだけの高い安定性を手に入れているのです。
だからこそ私たちは二本脚で活動できるのですね。
仙腸関節の運動
仙腸関節も少しは動きます。
ごくわずかですが。。
ただ、とても重要なので説明しておきますね。
仙腸関節における主な関節運動は
「ニューテーション」と「カウンターニューテーション」です。
「ニューテーション」は仙骨が前方へ傾くようにスライドする動きです。
「カウンターニューテーション」はその逆で仙骨が後方へ傾斜します。
これらの時、どちらとも両サイドの腸骨は仙骨とは逆方向へと傾きます。
(ニューテーション:腸骨は後方へ カウンターニューテーション:前方へ)
これらの可動範囲は約1~5ミリ(角度では1~3°)ととても小さく、
もちろんレントゲン等では確認できません。
しかし、この動きによって仙腸関節の安定性は大きく左右されます。
「ニューテーション」では靭帯に張力がかかり関節が固定されて、結果安定性が高まります。
「カウンターニューテーション」では靭帯が緩み関節の安定性は低下します。
どちらも仙腸関節の大事な運動ですが、
より不安定になってしまう「カウンターニューテーション」の方が
腰痛を招きやすいことは言うまでもありません。
不安定になる要素
ここで仙腸関節が不安定になる要素をみておきましょう。
①姿勢不良
背中(腰)を丸めている姿勢は「カウンターニューテーション」そのものである。
②筋力低下
背筋や腹筋、殿筋などの筋力が低下すると「カウンターニューテーション」へと導いてしまう。
③妊娠・出産
骨盤を拡げるために、強いホルモン作用で靭帯がゆるんでしまう。従ってズレやすくなる。
仙腸関節が不安定になっていても、剪断ストレスは容赦なく仙腸関節にかかってきます。
無論、スポーツなど激しい動きや重量物を持ち運ぶなどするとそのストレスは強化されます。
また体質であったり、あらゆる物理的ストレスによって靭帯がゆるみやすい方もいることでしょう。
腰痛を起こす仕組み
仙腸関節が不安定だとなぜ腰痛が起きやすくなるのでしょうか。
そのわけは「侵害受容器」にあります。
「侵害受容器」とは「有害な刺激を受けるところ」です。
刺激を受けて、それを神経に伝えます。
それにより有害刺激に対して身体は反応できるのです。
つまり身体を守るためには絶対必要なものなのですが、
仙腸関節にはこの「侵害受容器」が沢山存在しているのです。
なので、
仙腸関節が不安定になっていて、そこにズレなどが生じた際には
この侵害受容器から「痛み」として伝達されるのです。
これが現在考えられている仙腸関節による腰痛メカニズムです。
剪断ストレスに負けない腰へ
剪断ストレスが仙腸関節を刺激して腰痛を引き起こすことを説明して来ました。
剪断ストレスに対して負けない腰にするためには
仙腸関節の安定がいかに大事かということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
ではそのためには何をすべきか?
上記を踏まえると
①立腰(骨盤を立てて「ニューテーション」を心掛ける)
②筋力強化(腹筋・背筋・臀筋など‟体幹”を鍛える)
③出産後など、どうしても不安定な時期には必要に応じて骨盤ベルトなどを用いる)
などが対策として挙げられますね。
前回も書きましたが、結局は「体幹を強い状態にしておくこと」が大事なのです。
日頃より腰に不安を抱えている方は、特に、実践をお勧めします。
特に慢性腰痛で悩んでいる方、
その辛さから脱するためには、腰に負荷を掛けて「自信」をつけていくことが必須ですよ。
この辺の話はまたの機会に。(^J^)