以前【RICE法】で紹介しました、外傷への応急処置の基本中の基本『アイシング(Icing)』。
現在でも多くの場面で用いられています。
アイシングへの否定的見解
近年、このアイシングについて否定的見解が出ているのをご存知でしょうか。
アイシングすると、かえって「治癒」を遅らせると言うもの。
患部を冷却することで炎症が抑えられ、治癒過程が阻害されてしまうと言うものです。
驚きですね。
実はこの説、決してとんでもない話ではありません。
むしろ信ぴょう性は高いかも..
と言うのも、そもそも「RICE法」を提唱した張本人であるミルキン博士、その方が否定しているのです。
数年前に博士はこのようなことを言っています。
「患部を治すには炎症が必要である。これは病原菌が体内に入った時に起こる免疫反応と同様の生物学的メカニズムで、損傷した組織に炎症細胞を送ることで治癒を促進する。
炎症細胞のマクロファージは損傷組織にインスリン様成長因子(IGF-1)と呼ばれるホルモンを放出する。
これこそが治癒促進に働くのだが、アイシングで炎症を抑えるとホルモン放出を抑制してしまうので、結果として治癒が遅れてしまう。」
IGF-1は以前のコラム(【身長を伸ばすには】)でも出てきましたね。いわゆる「成長ホルモン」のことです。
ミルキン博士は近年行われた研究結果を踏まえた結果、上記見解に至ったようです。
炎症は正常な治癒過程
確かに、考えてみればミルキン博士の指摘通り。
炎症は正常治癒過程初期に起こるものですから必要な反応です。
その反応をより潤滑に起こすためにも内出血は必要ですから、「アイシングで血管を収縮させて内出血を抑える」と言うのも考えようによってはNGです。
さらには、過度に冷やすと血流減少によって組織を死滅させる危険性も指摘されています。
これでは治るどころか、新たな損傷を引き起こすようなものですね。
アイシングの利点
ただ、一概にはアイシングが悪い処置とは言えません。
アイシングは痛みを和らげ苦痛ストレスを減らす効果は高いですし、内出血を抑えることも「モモカン時の骨化性筋炎」のように、大量内出血で合併しやすい合併症予防には有効だと思われます。
あくまでも冷やし過ぎなければ良いのではないかと思いますが、少なくとも「炎症中は徹底的に冷やせば良い」との“神話”は崩れてきているようです。
ついでに申せば、MLBでのピッチャーの肩をアイシングする姿も減ってきているようですよ。
博士のおススメ
では、上記を踏まえたミルキン博士のおススメはどういった処置でしょうか。
博士は早期治癒に向けた処置として、以下のポイントを挙げています。
・怪我したら運動中止
・できれば挙上して腫脹を最小限に
・筋損傷であれば圧迫固定
・痛みを減らすために短時間ならアイシングOK
・アイシングは10分間を20分休憩をはさんで2回位
・負傷後6時間以後はアイシング必要なし
つまり「短時間ならアイシングは良い」ってことですね。
また、ミルキン博士はアイシングだけでなく、以下の「炎症を抑えるもの」についても治癒を遅らせるとして警鐘を鳴らしています。
・コルチゾン系薬剤
・非ステロイド系のすべての鎮痛薬
・関節炎や癌、乾癬で用いられる免疫抑制剤
・その他、免疫応答をブロックするもの
アイシングだけでなく、抗炎症作用をもたらすものはすべて治癒を遅らせる可能性があるという見解のようです。
私見で申せば。。
では以上を踏まえ、外傷直後の応急処置はどうするのか?
私見で申せば、基本として「アイシング」は良いと考えています。
外傷時にもっとも辛い症状はやはり「痛み」です。
痛みが強いほど、人は心身共に萎縮して、活動量が低下します。
活動量が低下すれば、血流も代謝も下がるのですから、治癒能力も下がってしまいます。
患部はともかく、活動した方が治りは早いのです。
アイシングは痛みを減らす効果は高いですから、少しでもストレスを減らして活動量を増やすことにつながるのではないでしょうか。
また先述のように、内出血を抑えた方が良いケースもあります。
なので、少なくとも「大量内出血が止まる」までは冷やした方が良いのではないでしょうか。
ただし、僕が学生時代先生に教わったのは「炎症(特に熱感)が消えるまで3日位は冷やす」との内容でしたが、これについては修正が必要でしょう。
ミルキン博士の提唱のように「初期のみのアイシング施行」で良い気がしています。
あくまでもケースバイケース(重症度、症状、部位、負傷者キャラクターなどを考慮)で対応していきたいと思います。
アイシングまとめ
僕が考えるアイシングとしてまとめると
①タイミング:受傷直後~半日、痛くてしょうがない時(冷やしてみて楽ならば)
②手法:氷、アイスバッグを用いて可能であれば這わせながら(アイスマッサージ)
③時間:10分~20分/回 感覚が無くなるまでやらない
④休憩:20分以上間隔開ける
⑤回数:必要に応じて。(自分が欲する感覚に従う)
となります。
ここで一つ述べておきたいことは、「頭で考え過ぎない」と言うことです。
「かならず〇〇回しなければならない」「〇分以上やらなければ」などのように頭に入ってきた情報に囚われすぎないようにしてください。
なにごともそうですが、「絶対」はありません。
ここで述べたことも将来新たな見解に変わっていることもあり得ます。
⑤にも書いたように「欲する感覚」など、自分自身の感覚に従うようにしてみてください。
多くの場合「気持ち良い」に従っていれば、ストレスも少なく治癒効果も高いでしょう。
feel so good ですね(^J^)